今回はいわゆるタネ問題(?)についてです。
自然農法についていろいろ調べていると、
よく目にするのが『固定種』ということば。
いっぽう慣行農法で使用されている多くのタネは、
『F1種』(雑種一代)。
わたしが自給農法を実践する中でも、
タネに関してはけっこう気になったため、
慎重に購入してきました。
そんななか、先日参加した『自然農講座』で、
「タネの見分け方」を教えてもらいました。
そのことは過去記事:自然農講座で学ぶ『自給農法』実習編⑦:畑で習ったあれこれを総まとめ!にも少し書いています。
さらに詳しい内容をまとめたのがこの記事です。
・自然農法が気になるけど、タネってどうやって選べばいいのかな?
・やっぱりF1はやめたほうがいいのかな?
・近所のホームセンターのタネは買っちゃいけないのかな?
そんな悩みをおもちのあなたには、
きっと役立つ情報になっています。
『F1種』はこんなタネです
大量生産・大量消費の商品作物用に交配された、1代限りの収穫を目的としたタネ
ちなみにこれはわたし流に言ってます。
こむずかしい定義はウィキ先生をどうぞ。
「大量生産・大量消費の商品作物用」
とはどういうことか?
これは『野口のタネ』の野口勲さんのサイトから引用します。
農家の手間がかからず(耐病虫性で生育期間が短く、揃いが良くて結束や梱包しやすく)、
輸送中荷傷みしない。
市場や店頭で日持ちがし、
市場を支配する納入先である外食産業(ファミレスやコンビニ弁当など)で
機械にかけて調理しやすく、
また調理後の色が良いことなどが育種の重要条件であるため、
年々消費者が買える野菜が、
色や形、保存性が良くなった代わり、
硬くまずくなっているのです。
味はともかく大量生産にはもってこいなのですね。
時代にフィットした特徴といえそう。
「1代限りの収穫が目的」というのもポイントで、
これは中学の生物で習った「メンデルの法則」ってやつです。
・遺伝子的に純粋な親どうしを掛け合わせると、最初の子供(1代目)は両親のいいとこ(優性)どりで生まれる
・さらに次の世代になると優劣バラバラな要素の子供がうまれてきて品質がそろわない。
だから「1代限り」なのですね。
そして「1代限り」にする理由はもうひとつあります。
それは『雄性不稔』。
一言で言えば「花のおしべがない遺伝子異常」(人間でいう無精子症)。
【F1種と『雄性不稔』について】
・植物はたいてい一つの花の中におしべとめしべがあって、自分で受粉する
・人工的に他の品種と交配させたい場合、「花Aのおしべ」を使えないようにして「花Aのめしべ」と「花Bのおしべ」で受粉させる。
・昔はこのように毎回おしべを取り除く作業(除雄)が必要で、一代雑種を作るのはたいへんめんどうだった。
・自然界ではごくたまに最初からおしべがない遺伝子異常を持った個体が生まれることがありこれが『雄性不稔』。
・『雄性不稔』の品種を使えば、いちいち雄しべを取り除く必要がないから楽に交配してF1種が作れる。
・そのため、今大量生産されている『F1種』野菜のタネはほとんどがこの『雄性不稔』を利用している。
・『雄性不稔』のこどももまた『雄性不稔』になりやすい。すなわち、F1種の作物からはタネができにくい。
つまり、私たちは知らないうちに
遺伝子異常の野菜ばかり食べていることになります。
『固定種』はこんなタネです
同じ作物の中で、特に優れたもののタネだけを選んでまいて、また選んでまいて…を繰り返すことで純系になったタネ
です。
そして『固定種』は『在来種』とも呼ばれ、
その土地の風土や気候に合ったものになります。
・同じ日本国内でも地域性のある多様な固定種の野菜が存在する
・味がいいものを選んでいるので、いい意味でクセがあったり本来の味が楽しめる
・タネを採取することができるので、半永久的にタネが手に入る
・成長にばらつきがあるので、長期間収穫できる
大量生産には合わないけれど、
家庭菜園には向いているわけです。
ついでに知っておきたい日本のタネ事情
そもそもタネは植物が子孫を残すために作るもの。
だからどんな植物でも、
子孫をたくさん残すためにタネは大量なことが多い。
だからわたしは子供のころから、
・お店にタネが売ってあるのは「一般家庭では手に入らない品種だから」、
もしくは「毎回タネをとったり、管理するのがめんどくさいから」である
・農家は商売だからきっとタネを自分の作物から毎年採取しているはずだ
つい最近までこう思い込んでいました。
そう、そんなわきゃないのです。
タネについてのオトナの事情をちょっと覗いてみましょう。
超ざっくり『タネの歴史』まとめ
【江戸時代】参勤交代で名産野菜のタネの交流が起こる。
さまざまな固定種が誕生。
中期以降は江戸の『滝野川』にタネ屋の集落ができる。
【明治~大正】各地のタネ屋が会社組織として大きくなっていく
【昭和20年代】大手のタネ会社により、
いわゆる『F1種』の品種がぞくぞく誕生し、
日本の農業に導入されていく。
【平成10年代】ホームセンターなど、
一般の量販店にも『F1種』の販売が拡大
【現在(平成30年)】スーパーで売られている野菜の90%以上が
『F1種』の野菜に。
ホームセンターのタネも半分以上は『F1種』になってきている(当サイト調べ)
そう。
今の農業で使われているタネは、
実はもう70年ぐらい前から基本『F1種』なのですね。
そして農家は毎年タネを買っているわけです。
もう5年ほど前にこれを知ったとき、
なんというか複雑な気持ちになりました。
「日本の農家さんは、とうの昔に商売の歯車に巻き込まれてしまっていたのか…」
と。
これ以上深入りすると、
『世界メジャー企業』
『農協の黒い影』
などなど陰謀論的な方向に発展していきます。
好きな方は調べてみるとおもしろいですよ~
タネの世界も大手が独占
世の中大きな会社(店)が大きくなり、
小さな会社や個人商店はどんどん淘汰されとります。
タネの世界もおなじようでして、
日本国内でみると『サカタ』と『タキイ』が2強。
そしてその日本代表である2強も
世界で見れば上のグラフが示すとおり
弱小チームです。
以前は日本の各地に「タネ屋」がいて、
それぞれのタネ屋が独自の『固定種』を持っていたようですが・・
その会社が倒産したり吸収合併されるとき、
その独自の『固定種』も一緒に廃番になるようです。
消えてしまった『固定種』は星の数ほどあるのでしょうね…
横浜市南区の日東農産種苗KKが、3/31で営業停止するそうです。
取扱商品の一部は、 群馬のカネコ種苗に営業譲渡されるそうですが、
カネコが引き受けないタネは廃番となり、世の中から消えてしまいます。
昔、みやま小かぶ種子を50L届けた思い出がありますが、全国規模で
手広く営業していた会社も、廃業していく時代なのですね。野口のタネより
感想:自分の固定種を作るのが一番
タネにまつわるあれこれを書きましたが、
大きな流れとして『F1種』が『固定種』を淘汰しようとしているように見えます。
『固定種』は時代に合わないですもんね。
すでに失われた固定種も多いと予想されます。
いっぽう世の中的には勢いのある『F1種』ですが、
自然農法的な世界では嫌われがち(?)な印象。
「遺伝子異常の雄性不稔は人体に影響があるのでは?不妊と関係しているのでは?」
といった意見をちらほらみかけます。
わたし個人としても『固定種』のほうが好きだし(味がおいしい)
今からもなるべく使っていきたいですが、
『F1種』の健康への被害に今のところ確たる証拠はありません。
F1種の場合、
どちらかと言えば『毎回買わなければいけないこと』
が一番問題だと感じます。
そして『F1種』からでも全くタネがとれないわけではなく、
少ないタネを採取していけば
それもゆくゆくは固定種になるのですね。
以前お話した『自給農法』の考え方には
「そこにすべてがある」というのがありました。
固定種だろうと、F1種であろうと、
自分の畑にタネをまいて、
そこからまたタネを取っていく。
どちらのタネを使うにしても、
『自分だけの固定種』
『その畑の情報を持った固定種』
を作るのが大切なのだろうと思いました。
昔はそれが当たり前だったのですから。
それではタネのお話前編はここまで。
後編は市販のタネの見分け方について書きます。
さいなら~
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