遠路はるばる山梨までクルマでたずねて教わった『自給農法』。
備忘録として始めたこのシリーズもついに10回目。
カテゴリー:自給自足あれこれ
実習編6回目の今回は、畝(ウネ)のつくり方です。
年をとってもできるウネづくり
自給農法の魅力の一つは、「がんばらない農法」であること。
ただ単に「らくな農法」ではなく、
自然のチカラを利用することで「いらない努力をしない」ことが極意。
そしてその「むだな力を使わないスタンス」は、
ウネづくりなどの作業方法にも一貫しています。
百聞は一見にしかず。
まずは講師のジャンさんがウネを立てるようすをごらんください。
自給農法のウネ作りの手順

①クワをかるく持ち上げて…

②根が張っている表層にクワの重みで落とす

③根をはがすように、柄を奥におこす

④根がガンコなときにはまわして※通常は③⇒⑤の順です。

⑤そのまま根ごと手前に寄せる
ぜひもう一度スクロールして、
ジャンさんの立ち姿を中心に見てください。
…リラックスして動きにムダがない、
達人の域に達した武道家そのものです。
正直今までヒーヒー言ってウネを作っていた私からしたら、
「そんなんでいいのかよ!」というレベル。
この後実際に同じ要領で体験させていただいたんですが、
ビックリするほど楽!とにかくラクチン!
クワの重みを利用するので、自分の力はほんの少しですみます。
楽(自然)な動きを追求していくと、
どのジャンルでも達人は同じような動きになるようで…
ジャンさんが「リラックスしながら作業するときに、リズムが大切。意外とレゲエが合う」と言ってました。お好みの音楽を聴きながら楽しいクワワークをどうぞ。
らくらくウネ作り3つの『秘訣』
秘訣①:長柄の『備中クワ』
まずは写真を見てください。
この『備中クワ』。
初めて使ったのですが…
雑草が生えた根土を起こすときにはとにかく楽だと実感しました。
ジャンさんのお話では、
その昔備中クワが普及したことで日本の耕地面積がすごく増えた歴史があるらしいです。
そんなおすすめの備中クワなのですが、
実は今日本で売られているほとんどのものは軽量化されているとのこと。
この日はホームセンターの備中クワもあり、使い比べてみました。
するとその差はマジで赤ちゃんと関取りレベルの違い!
軽すぎて重さだけではまったく土にささらない。
そのためおもいっきり力を入れる必要がありました。
ちなみに柄もぜんぜん短い。
昔ながらのずっしりとした備中クワを手に入れる方法として一番早いのは、
小道具屋などで中古品を探すことだと思います。
Q:新品でいいものはどこにもないの?
A:調査すると昔ながらの『手打ち』で作っているものなら少しは重い備中クワがありそうです。が、ジャンさんのクワほど重いものは見つけられませんでした。
なんとジャンさん、そのうち自分で作ると言っていたので、そうなったらジャンさんから買いましょう。
それからもう一つのポイントは『長い柄』。
①柄が長いから、少し離れていても腰を曲げずに作業ができる
②体からクワまでの距離が遠くなるので、『てこの原理』がはたらき、力が最小限ですむ
と言う感じです。
もしもそんな『長柄で重い備中クワ』が手に入る人は本当にラッキー!
※追記:平成30年7月1日
なんと家の蔵で備中クワを発見して小躍り。
その様子を記事にしています。
秘訣②縦でなく横に移動
これ、知ってしまえば「そりゃあこっちが楽だわ」とうなずく方法論。
自分なりに図にしてみました。
ちょと分かりづらいかもしれませんが、言葉にすると、
今まで:後ろ向きに歩きながら、足元前方の土を起こし、横に土を上げて自分の横に畝を作っていく
自給農法:カニ歩きの要領で横に進みながら、ウネになる場所の向こうの土を起こし、手前にウネを作っていく
こんな感じです。
写真でもう一度確認してみましょう。
この『横歩き』だと、腰をひねるうごきがないので、上半身はずっとおなじ方向をむいていられます。
それからもうひとつ。写真でもわかるように、ウネの中心から見て奥側の根土を返します。
中心から見て左右をそれぞれ起こして一つのウネにしていきます。
だから長柄であることが大切なんですね。
秘訣③:表層の根土だけを掘る
今までの感じでお気づきだと思いますが、
この自給農法のウネ、ふつうよりも低いです。
自給農法における「そもそもなぜウネを作るのか?」
その考え方を知るとウネが低い理由が分かります。
・次世代土壌を集めるため
・人の歩く通路と作物がある場所を区別するため
・抑草効果を得るため
一番の理由は、次世代土壌を集めることなのです。
上の図の赤丸とクワのイラストはわたしが入れたものです。
根土だけの表土を集めるようにウネを作るので、
自然に低いウネになります。
ただし、過去記事でご紹介した「土かけ3回肥料いらず」を実践すると
だんだん高いウネになていくそうです。
それから、畝の幅は50~60センチぐらいだそうです。
これは普通のウネとだいたい同じぐらいの大きさではないでしょうか。
感想:『重み』を利用しなくなった日本人
自給農法の自然の力に逆らわず、じょうずに利用するスタンスには脱帽です。
哲学が、実際の作業にまで徹底的に落とし込まれていますね。
それから今回このクワワークを教わっているとき思い出したのが、
料理で一番大切な道具である『包丁』のこと。
(実は飲食業界に5年ほどいた経験あり)
和食の世界では重いほどいい包丁とされていて、
しかも実際に使いやすいんです。
ちなみに和・洋・中全ての包丁を使った経験がありますが、
意外にも中華包丁が慣れたら一番使いやすかった経験があります。
その理由はあの大きな包丁の重みを使うから。

大きくて重たい中華包丁
例えば野菜を切るとき。
力を入れて切るのと、包丁の重みで切るのでは切り口の美しさが全く違います。
そんなこんなを考えてみると、
たしかに「世の中軽いもんばっかりになったな~」と気が付きます。
タバコは軽い(タールやニコチン)銘柄が増えたけど、
そのぶん本数が増えたり。
お茶碗はプラスチックになって割れないけど、
不用意にあつかえる分こどもが不器用になったり。
「楽がしたくて、なんでも軽くして、かえってきつい目に合っているのが現代人なんじゃねえか…」
とかジイさんみたいなことを思ったウネ作りでした。
逆に重たいものを利用することでかえって楽になることって、
実はまわりにたくさんあるのかもしれません。
それでは今回はここまでです。
次回は最終回!の予定です。
さいならー
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